[#「しよう」に傍点]と云ったって出来る事じゃねえ。え、何んだって未《まだ》高いって? 冗談じゃあねえ驚いたなあ。一両でも高いって云うのかい? 屋敷一個が一両だぜ。一両の屋敷ってあるものか! 堀立[#「堀立」はママ]小屋を建てた所で、一両ぐらいは直ぐかからあ。それが何うだ御屋敷なんだぜ。門があってよ玄関があって、母屋があって離座敷《はなれ》があり、泉水築山があるんじゃねえか! そうさ尤も模型だから這入って住むことは出来ねえが、そいつあ何うも仕方がねえ。……これがお前さん住める屋敷なら、二百両三百両じゃあ出来ねえんだからな。……とは云うものの考えてみれば、住めねえ屋敷が一両とは、ナール、こいつ高えかもしれねえ。よし来た夫れじゃ最う少し負けよう。ギリギリの所一分とは何うだ。アッハハハ負けたものさなあ。百両から一分になったんだからなあ。さあ最う此辺がテッペンだ。もう是からは一文だって引けねえ。いいかな御立合い引けねえんだよ。……兎も角もじっくり[#「じっくり」に傍点]見てくんな。この精巧な模型をよ。ごまかし[#「ごまかし」に傍点]なんか一個所だってねえ。ガッチリ建築法と造庭と、方位吉凶に合っているんだからな。だからよ、此奴を買って行って、尺に合わせて計ってみるがいい。そうして屋敷でも建ててえ時には、そっくり此奴を参考にして、トンカントンカン建てるがいい。大工を頼む必要はねえ。そうだ板っ切れの削り方と、釘の打ちようさえ知っていたら、自分で結構建てることが出来る。ところで種類なら幾通りでもある。九尺二間の裏店から、百万石の大名衆の、下屋敷まで出来てるのさ。尤も城の模型は無え。こいつは鳥渡物騒だからな。ウカウカそんな物を拵えようものなら、謀叛人に見られねえものでもねえ。おお恐え逆磔刑《さかはりつけ》だ! が、併しお大名衆から、特にご用を仰せ付かるなら、こいつは別物だ遠慮はしねえ、城の模型だって造ってみせる。山本勘介も武田信玄も、太田道灌も太閤様も、俺から云わせりゃ甘えものさ。昔から名ある築城師、そんなもなあ屁の河童だ! だがマア自慢はこれくらいとして、さて夫れでは実物に就いて、説教することにしようかな。……最初は是だ、この模型だ! 五行循環吉祥之屋敷!」
 こう云い乍らその香具師は、地面に置いた風呂敷包から、屋敷の模型を取り出した。
 今日の張ボテ式、子供瞞しの品ではあったが、
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