悉くお喜びであるぞ。ついては」と云うと居住居を正し、
「上様御諚、町奴としての、何か放れ業を致すよう」
こいつを聞くと緋鯉の藤兵衛、さも嬉しそうに言上した。
「お庭拝借致しまして、町奴に似つかわしい放れ業、致しますでござります」
「おうそうか、隨意に致せ」
そこで藤兵衛庭へ下り、素晴らしい一つの放れ業をした。そうして、それをしたために、公平な政治が行なわれ、水野は切腹、家は断絶、白柄組一統の者、減地減禄されることになった。
その放れ業とはなんだろう。
藤兵衛、腹切って死んだのである。
「町奴の肝玉ごらん下され!」
叫ぶと一緒に臓腑を掴み出し、地上へ置くと、
「藩隨院長兵衛と黄泉において、水野の滅亡、白柄組の瓦解、お待ち受け致すでございましょう!」
そのまま立派に死んだのである。
緋鯉の藤兵衛の葬式が、非常に盛大に行なわれた日、浅草寺で鳴らす鐘の音が一種異様の音を立てた。
手慣れた寺男のつく鐘とは、どうにも思われない音であった。
それは当然と云ってよい、ついたのは釣鐘弥左衛門なのだから。
底本:「国枝史郎伝奇全集 巻六」未知谷
1993(平成5)年9月30日初版発行
初出:「少年倶楽部」
1927(昭和2)年4月
※「藩隨院長兵衛」は、底本どおりとしました。
※「ズット」「グット」は底本の通りです。
入力:阿和泉拓
校正:門田裕志、小林繁雄
2005年9月10日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング