兵衛、夢の市郎兵衛、そんな手合もございます。お預け下せえお預け下せえ。それとも」と云うと腕を組んだ。
「仲裁役には貫禄が不足、預けられぬと仰言《おっしゃ》るなら、裸体《はだか》で飛び込んだが何より証拠、とうに体は張って居りやす。切り刻んで膾《なます》とし、血祭りの犠に上げてから、喧嘩勝手におやり下せえ。息ある限りは一歩ものかねえ、そこは男だ、一歩ものかねえ。さあさあ預けて下さるか、それとも、膾に切り刻むか、ご返事ご返事、聞かせて下せえ!」
 男を磨く町奴。ドギつく白刃の数十本の中で、小気味よく大音を響かせた。
 ワ――ッと群集のどよめいたのは、その颯爽たる男振りに、思わず溜飲を下げたのであろう。


 気を奪われた浪人組、互いに顔を見合わせたが、そこは老功の与左衛門である。けっく[#「けっく」に傍点]幸いと考えた。
「こいつはいっそ[#「いっそ」に傍点]任せてしまえ」
 そこで抜身をダラリと下げ、ツト進み出ると、云ったものである。
「これはこれは弥左衛門殿か、お名前はとうから存じて居ります。争いの仲裁まずお礼、いや何原因も知れたことで、折れ合おうとすれば折り合います。またお顔を立てよ
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