立ちますが、儀に外れたお頼みは、引き受けることではござりませぬ」
立派に言い切ったものである。
「さようか」と伊豆守打ち案じたが、
「では町奴と申すもの、世上の花! 仁侠児だの」
「御意の通りにございます」
「で近世名に高い、町奴といえば何者かの?」
声に応じて緋鯉の藤兵衛、ここぞとばかり大音に言った。
「近世最大の町奴、藩隨院長兵衛にございます」
「ふふん、さようか、藩隨院長兵衛?」
伊豆守、首を傾げた。
「その藩隨院長兵衛[#「藩隨院長兵衛」は底本では「藩隨長兵衛」]というもの、町人の身分でありながら旗本水野十郎左衛門に、無礼の振舞い致した由にて、水野十郎左衛門無礼討にしたはず、さような人間が偉いのか」
「申し上げます」と緋鯉の藤兵衛、この時ズイと膝を進めた。
それから云い出したものである。
「藩隨院長兵衛事一代の侠骨、町奴の頭領にございました。江戸に住居する数百数千、ありとあらゆる町奴、みな長兵衛を頭と頼み、命を奉ずる手足の如く、違《たが》う者とてはございませんでした。さてところでその長兵衛、どのような人物かと申しますに、素性[#「素性」は底本では「素情」]は武士、武術の
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