衛門、白柄組の一党だよ。この儘のさばら[#「のさばら」に傍点]せちゃア置かれねえ」
「ところで兄貴、その手段は?」
「ここにあるよ」と胸を打った。
「胸三寸、誰にも言わねえ」
「俺らにも明かせてくれねえのか」
 気色ばむ弥左衛門を慰めるように、
「俺一人で出来る仕事なのさ、無駄なたくさんな殺生は俺らにとっちゃア好ましくない。だがな」と藤兵衛しんみり[#「しんみり」に傍点]となった、「もしも[#「もしも」に傍点]のことが俺にあったら、それ、お前とは縁の深い、あの浅草の鐘でもついて、回向というやつをやってくれ。そうしてなんだ俺が死んだら、いよいよ町奴は衰微するだろう、そこでお前だけは生きながらえて、町奴の意気をあげてくれ、こいつが何より肝心だ、それはそうと、しめっぽく[#「しめっぽく」に傍点]なった。さあさあこれから一杯飲もう」


 藤兵衛は谷中に住んでいた。そこで谷中の藤兵衛とも云う。彼は金魚組の頭領であった。そこで緋鯉の藤兵衛とも云う。躯幹長大色白く、凜々たる雄風しかも美男、水色縮緬の緋鯉の刺繍《ぬいとり》、寛活伊達の衣裳を着、髪は撥髪《ばちびん》、金魚額、蝋鞘の長物落し差し洵《ま
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