仰有《おっしゃ》るやら。……でもきっと貴郎様は、おさげすみなさるでございましょうね。そうしてもうもうお屋敷へなど、お寄せ付けなされはしますまいね」
「どう致しまして私など、こっちから日参いたします」
「まあ嬉しゅうございますこと、嘘にもそう云っていただけると、どんなに心強いことでしょう」
 塀外を金魚売が通って行った。そのふれ[#「ふれ」に傍点]声が聞えてきた。それは初夏の訪れであった。
 後庭《こうてい》には藤が咲きかけてい、池の畔《みぎわ》の燕子花《えんしか》も、紫の蕾を破ろうとしていた。
 すると、その時縁側の方から、微《かすか》な衣擦れの音がした。
「お花か※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と義哉は気不味《きまず》そうに云った。
「はい、お呼びかと存じまして」
「呼びはしない。向うへ行っておいで」
 お花の立去る気勢《けはい》がした。
 鍵を義哉へ預けたまま、お錦も間もなく帰って行った。
 その翌日の夕方であった。
 神田小川町の友蔵の家へ、お花はとつかわ[#「とつかわ」に傍点]と入って行った。
「兄さんこれなのよ[#「兄さんこれなのよ」は底本では「兄さんれこれなのよ」]、手箱
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