と「爺つあん」は、夜具から体を抜け出させたが「ほんとにお前が知っているなら、どうぞ俺に話してくれ。お願いだ、話してくれ。え、紫錦はどこにいるんだ?」
「だが紫錦さんの在所《ありか》を聞いて「爺つあん」お前はどうする意《つもり》だな」
「どうしてもいい、教えてくれ! え、紫錦はどこにいるな?」
「お気の毒だが教えられねえ」にべもなくトン公は突っ刎ねた。
「教えられねえ? 何故教えられねえ?」
「お前の本心が解《わか》らねえからよ」
「俺の本心だって? え、本心だって?」
「今紫錦さんは幸福なんだよ。ああそうだよ大変にね。もっとも自分じゃ不幸だなんて我儘なことを云ってるけれど、ナーニやっぱり幸福《しあわせ》なのさ。だがね、紫錦さんの幸福はね、どうも酷《ひど》く破壊《こわれ》やすいんだよ。で、ちょっとでも邪魔をしたら、直ぐヘナに破壊っちまうのさ。ところでどうも運の悪いことには、その紫錦さんの幸福をぶち破壊そうと掛かっている、良くねえ奴がいるのだよ。だがここに幸《しあわせ》のことには、まだそいつらは紫錦さんの居場所を、ちょっと知っていねえのさ。……ね、これで解ったろう、俺らがどうして紫錦さんの
前へ 次へ
全111ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング