、女軍のようなところもある。そういえば武器さえ貯えている。
 今こそ秩父の山中にいるが、以前には信州や上州や、美濃や飛騨にもいたそうである。
 わけのわからない団体なのであった。

        五十五

 そこで鯱丸に訊いたのであった。
 ところが鯱丸の返辞たるやまことに、簡単なものであった。
「人里の人間を憎んでいる、尼さん達の集まりなので。時々行衛を眩《くら》ますのは、人里へ出て行って掠奪《りゃくだつ》をやるので。そうしてお師匠さんの素性はといえば、謀反人の血統だということなので」
 こう云われていよいよ桔梗様には、山尼の性質が解らなくなった。
 しかしそれよりも桔梗様にとっては、一式小一郎の身の上が、心にかかってならなかった。芹沢の里で別れて以来、絶えて消息を聞かないのである。死んだであろうか、生きているだろうか? その点さえも心もとない。
 それより何より桔梗様には、小一郎が恋しくてならなかった。自分はこんな山の中にいる。恋人小一郎の行衛は知れない。もう一生逢えないかもしれない。これが悲しくてならないのである。それにしても何んの必要があって、自分をこんな山の中へ、山尼達は攫って来たのだろう? これからどうするつもりだろう? 一生人里へは返さずに、山の中へ止めて置くのだろうか?
 これを思うと桔梗様は、不安で不安でならなかった。
 しかし桔梗様のその不安は、一瞬の間に喜びとなった。
 というのは盆地の外れにあたって、二派の武士達でも衝突したような、凄じい叫び声が忽然と起こり、太刀打ちの音が聞こえて来たかと思うと、その方角から馬に乗った武士が、女の馬子を後に従え、桔梗様の方へ走って来たが、天幕の前までやって来ると、ヒラリと馬から飛び下りた。
「おお桔梗様、いられたか!」
「まあ、あなたは小一郎様!」
「お助けに参った、さあさあ馬へ!」
 ――で、桔梗様を馬へ乗せ、君江を先立て一式小一郎は、一散に麓へ下ったからである。
 しかしその時邪魔がはいった。いつの間に先に廻わっていたものか、南部集五郎が二、三人と共に、翻然木蔭から飛び出して、素早く行手を遮《さえぎ》ったのである。
「やらぬぞ一式!」
 切り込んで来た。
「集五郎か」
 と太刀を抜いたが、股を一|揮《き》! 充分に切った。
「あっ」
 という悲鳴! 集五郎だ。切られてグダグダに膝を突いたところを、
「許してやろうぞ! 命ばかりは! ……やれ! 君江!」
「あい!」と云うと、君江は馬を追い立てた。
 馬は一散に馳せ下る。馬上の桔梗様の袖が靡き、崩れた髪の毛が渦を巻く。
 血刀を片手に下げたまま、後を追って走る一式小一郎の、その勢いに恐れたのであろう。誰一人それを追おうともしない。
 盆地の一角では田安家の勢と、一ツ橋家の勢とが切り合っている。

「昆虫館再興は山尼の徒の為なり」
 だが本当を云う時は、
「昆虫館再興は弁天松代の為なり」
 こう云わなければならないのである。
 と云うのは山尼の一団と、昆虫館の一団とが、いよいよ衝突しようとした時、片足の吉次が盗み取った雄蝶を、吉次をたぶらかして滝壺から出させ、それを奪って昆虫館へ駈け込み、昆虫館主人に渡したので、それを山尼の一団へ渡し、戦いを未然に防いだからである。

「神秘昆虫館」の物語も、数種説明を加えることによって、大団円とすることにする。永世の蝶の持っていた、奇怪の謎は解けただろうか? 山尼の徒が持ち去ってしまった。そうして山尼はどこへ行ったものか、その消息を失ってしまった。自然永世の蝶の謎もどうなったものか解らない。山尼の迫害から遁がれたため、昆虫館は昔にかえり、昆虫館主人はそこに住んで、研究をつづけたということであるが、そもそも昆虫館主人とは、どういう素性の人物なのであろう? ある伝説による時は、家光に亡ぼされた駿河大納言の、正統の血を引いている人物であり、そうして隅田のご前なる人は、同じく妾腹の血を引いた人で、幕府にとっては二人ながら、恐れられていた人達であり、そうして高蔵尼という一女性は、駿河大納言を亡ぼすべく、活躍したところの本多上野介の、血を引いた姫だということである。昆虫館主人と高蔵尼とは、敵同志でありながら、どうしてかつては夫婦などになったのか? これこそ疑問というべきであるが、詳しいところは伝説にもない。
 ところで一式小一郎は、その後どういう生活をしたろう? 桔梗様と結婚したそうである。では君江は気の毒ではないか。いやいや彼女は風変わりの女で、そうして楽天家でもあったため、自分の運命を悲しみもせず、例の愛馬の手綱を取り、故郷へ帰ったということである。
 隅田のご前に至っては、依然隅田川の岸へ住み何やら大きな企てに、専念したということである。
 北王子妙子や冷泉華子の、その後の消息も明記されて
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