するようなところがある。
彫像である! 動かない! がもしそれが動いたら、一層物凄く思われるだろう。
部屋全体が煙っている。紫陽花《あじさい》色に暈《ぼ》かされている。とは云え煙りこめているのではない。それは光の加減からであった。
穹窿形をした組天井、そこから龕が下っている。瓔珞《ようらく》を下げた龕である。さあその容積? 一抱えはあろうか! 他界的な紫陽花色の光線が、そこから射しているのであった。
部屋の四方は板張りである。板張りは純白に塗られている。釜の据えてある左手に、錦の帳《とばり》が懸けられてある。部屋の外へ通う戸口だろう。深い襞を作っている。襞の窪《くぼ》みは蔭影《かげ》をつくり、襞の高みは輝いている。
足が冷々と冷たかった。で桔梗様は床を見た。床は石畳になっていた。白と黒との碁盤形、それに畳まれているのである。
シン、シン、シンと湯の煮える音! それが唯一の音であった。
が、もう一つ音がした。ドーン、ドーンという音である。岸にぶつかる波の音だ。非常に遠々しく聞こえて来る。
それからもう一つ音がした。ドン、ドン、ドン、ドンという音である。滝の落ちるような音である。
その他には音はない。部屋内は気味悪く静かである。
気丈で無邪気な桔梗様にも、この光景は恐ろしかったらしい。
「ここはいったいどこなんだろう」顫え声で呟いたものである。
と、すぐに声がした。「錬金部屋でございます。女方術師|蝦蟇《がま》夫人、その本名は冷泉華子、その人の部屋でございます。……所は海岸、芹沢の郷、……江戸の中ではございません。……建てたお方は一ツ橋様! そうしてあなた様は囚人《とらわれびと》で、逃げようとなされても逃げられません。……そうして妾こそその華子なので。でも恐れるには及びません。無益に危害は加えません。……で、お答えなさりませ、これから妾のお訊きすることに!」
彫像が物を云ったのである。
三十二
釜の横に立っていた女の彫像、それが物を云ったのである。いやいや彫像ではなかったのであった。蝦蟇夫人事華子なのであった。
桔梗様が気絶から蘇甦《よみがえ》るのを、それまで待っていたのらしい。
と、華子は一足出た。閉じていた眼が見開かれている。結んでいた口が綻びている。眼には針のような光がある。捲くれた唇から見える歯にも、刺すような冷
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