なたの邪魔をしようとして、染吉の朱盆を集めたんじゃァないよ。どうしたら立派な赤い色を、死絵の中へ出すことが出来るか、その参考に江戸中を廻って染吉の、盆を集めたってものさ。そいつにお前さんが引っかかったのは、少ォしばっかり間抜けだねえ』と。いやはやどうも、これには参った」
「だがオイ」と岡八またいった。「お前の話しがお縫様屋敷の話、みんながみんな嘘でもあるめえ」
「うん」と半九郎苦笑をし「今辻斬がはやるから、辻斬の武士を一枚入れ、染吉の朱盆が値を呼んだというからそこで、そいつを早速取り入れ、お縫様屋敷の物語りを、チョッピリ加えてデッチ上げたってものさ」
「お縫様屋敷の真相は?」
「お縫様という美人がいた。人を恋して死んでしまった。今に執念が残っている。ただこれだけさ、何があるものか」
「だが、よかったよ、お前の話、俺に難事件を片付させてくれた」
「兄貴を担ごうと思ったんだが、まるでアベコベに利用されてしまった」
「どんな話にだって暗示はあるなあ。だがお前にも厄介になった。有難かった、一杯飲もう」



底本:「妖異全集」桃源社
   1975(昭和50)年9月25日発行
初出:「サンデー毎日」毎日新聞社
   1927(昭和2)年1月
※「くらしっく時代小説10 国枝史郎集」リブリオ出版 1998(平成10)年3月20日初版1刷発行を参照し、底本の数カ所に現れる「」中の「」はすべて『』に統一し、促音が「つ」「ツ」、拗音が「や」と大振りにつくられている箇所はすべて小振りの「っ」「ッ」「ゃ」に統一しました。
※その他、「」や句点(。)の欠け、明らかに誤植と思われる箇所は上記テキストに基づいて修正し、入力者注を付しておきました。
※「いわれませんよ」主人例によって」は底本では「主人」の前で改行し、「主人例によって」の段落が天付きになっていましたが、「くらしっく時代小説10 国枝史郎集」にならって改行を取りました。
※底本には以下に挙げるように誤植が疑われる箇所がありましたが、「くらしっく時代小説10 国枝史郎集」でも同様で正しい形を判定することに困難を感じたので底本通りとし、ママ注記を付けました。
○たじろいた所:「たじろいだ」の誤植か。
※「綺麗」と「奇麗」の混在は底本通りにしました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:ロクス・ソルス
校正:門田裕志、小林繁雄
2004年12月13日作成
2009年2月27日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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