来て眺めやった。
が、勘右衛門も京助も、そのようなことには感付かないかして、いつまでも捻じ合いひしめき合うのであった。
その結果はどうなったであろうか?
二人の争いを見守りながら、二人をグルリと取り巻いている、町の人達の間を分けて、痩せぎすで長身《せたか》くて色が白くて、月代《さかやき》が青くて冴え冴えとしていて、眼に云われぬ愛嬌があって、延びやかに高くて端麗な鼻梁に、一つの黒子《ほくろ》を特色的に付けて、黒絽の単衣《ひとえ》を着流しに着て、白献上の帯をしめて、細身の蝋鞘《ろうざや》の大小を、少しく自堕落に落とし目に差して、小紋の足袋《たび》に雪駄《せった》を突っかけた、歌舞伎役者とでも云いたいような、二十歳《はたち》前後の若い武士が、勘右衛門と京助とへ近寄って来たが、――そして真ん中へヌッと立ったが、
「これは松倉屋のご主人で、京助などという手代風情と、このような道の真ん中などで、何をなされておいでなさる。みっとものうござる、みっとものうござる……。京助々々何ということだ。ご主人様と争うなどと! ……え、そうか、ふうん、なるほど、ご内儀の云い付けでその包物を、どこかへお届けしようというのか。ではサッサと行くがよい。行け行け行け、かまわない。……ハッハッハッ、勘右衛門殿、はしたない[#「はしたない」に傍点]ではござりませぬか。いかさまお菊殿はあなたにとっては、自由《まま》になるご内儀でござりましょう。が、しかしご内儀のお菊殿から云えば、自分一人だけの勝手の用事も、自らあろうというもので。そこまで掣肘《せいちゅう》をなさるのは、少しく横暴でござりますよ」
――と、このように云うことによって、京助を勘右衛門から立ち去らせ、怒って焦燥して執念深く、尚も京助を追いかけようとする、勘右衛門を抑えて動かさなかった。――で、事件は解決された。
が、この武士は何者なのであろうか?
旗本の次男の杉次郎なのであった。
根津仏町|勘解由店《かげゆだな》の、一軒の家の階下の部屋で、話し合っている武士があった。
「アラの神は讃《たた》うべきかなさ」
こう云ったのは老いたる武士であった。
「もっと讃うべきものが厶《ござる》」
中年の武士が皮肉そうに云った。
「さようさようアラの神よりも、もっと讃うべきものが厶。が、そいつは残念にも、容易に手には入らないようで」
「そこでいよ
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