、一人娘ごであられるし、茅野雄殿は教主覚明殿の、一人の甥ごであられるのだから、扉を焼き切って洞窟内へ乱入してお二人を討ち取ることは、覚明殿に対してどうだろう?)
 で、郷民達は躊躇した。
 しかしその時郷民達に雑って、歯を食いしばり地団駄を踏み、洞窟の扉を睨みつけていた宮川覚明が、長髪を揺すり、狂信者にありがちの兇暴性を現わし、こう吼えるように怒号した。
「かまわないから火をかけろ! 扉を焼き切って乱入しろ! 茅野雄と浪江とが奥の院の、内陣にまで行きつかないうちに、追い付いて討って取るがよい! 洞窟内には関門がある! いくつとなく関門がある。厳重に番人が守ってもいる! 容易に破って行くことは出来ない。そこが我々の付け目とも云える! 二人を内陣へ行かせてはいけない! どうしても途中で討って取らなければいけない! ……娘でもない甥でもない! 我々に取っては教法の敵だ! 教法の敵の運命は、自ら一つに定《き》まっている! 刃《やいば》を頭上に受けることだ! ……さあやっつけろ! 火をかけろ!」
 これでやるべきことが定まった。
 間もなく煙りが渦巻き上り、火焔が扉へ吹きかかった。

 一方醍醐弦四郎は、曠野をズンズンと潜行して、間もなく白河戸郷を巡っている、丘の一つの頂きへ着いた。
 灌木の陰へ身を隠しながら、白河戸郷を見下ろした。
「これは一体どうしたんだ!」
 何を弦四郎は見たのであろう? いかにも驚きに打たれたように、こう頓狂な声を上げた。
 眼の下に見える白河戸郷に、一大事が起こっていたからであった。
 すなわち人家や牧場や、花園や売店や居酒屋などから、老若男女子供までが、得物々々をひっさげて、盆地の中央に聳えている、真鍮の天蓋型の屋根を持った、回教寺院《モスク》型の伽藍の方向へ向かって、波の蜒《うね》るように押し出して行き、その回教寺院を破壊するべく、得物々々を揮っているのであった。
 で、そこから聞こえてくるものは、人の喚き声と物の破壊《こわ》れる音とで、そうしてそこから見えて来るものは、砂塵と日に光る斧や槌や、鉄の棒や、鉞《まさかり》や刃物なのであった。
 内乱が起こったと見るべきであろう。
 この勢いで、時が経ったなら、白河戸郷という神域別天地は、間もなく滅亡してしまうであろう。
(これは内乱に相違ない! が、どうして内乱なんかが?)
 丘の頂きに立ちながら
前へ 次へ
全100ページ中90ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング