その駕籠についてその方へ進み、碩寿翁の乗っているその駕籠が、その方へ進んで行くところから、それをつけて[#「つけて」に傍点]その次の二挺の駕籠が、その方へ進んで行くのだと、こう云った方がよさそうであった。
進み進んで四挺の駕籠が、曠野から姿を消した時、白河戸郷の盆地の上の、丘の一所へ現われた。
そこから姿の消えた時には、盆地の坂を下っていた。
が、そうして四挺の駕籠が、白河戸郷へ到着するや、幾つかの事件が行なわれた。
衆を集める鐘の音が、回教寺院めいた建物から響くと、耕地からも往来《みち》からも家々からも、居酒屋からも、花園からも、大人や子供や男や女が、一度に鬨《とき》を上げて集まって来て、四挺の駕籠を取り巻いてしまった。
「誰だ誰だ! 何者だ!」
「神域へ無断で入って来た! 追い払ってしまえ! 虐殺してしまえ!」
「とにかく将監《しょうげん》様へお知らせしろ!」
「どんな奴が駕籠に乗っているのだ! 駕籠の戸をあけて引きずり出せ!」
郷民達が声々に喚いた。
と、その時一人の老人が、幾人かの郷民に囲繞されて、四挺の駕籠の方へ近寄って来たが、
「拙者は白河戸将監でござる。白河戸郷の長でござる。何用あって参られたか?」
こう四挺の駕籠に向かって云った。
と、その声に応じて一挺の駕籠から、一ツ橋|慶正《よしまさ》卿が悠々と現われ、もう一挺の駕籠から碩寿翁が現われ、もう二挺の駕籠から老人と美女――他ならぬ刑部《おさかべ》老人と、巫女《みこ》の千賀子とが現われた。
そうして一ツ橋慶正卿が、何やら将監へ囁いた。
と、形勢が一変した。
郷民達が慇懃《いんぎん》になり、一度に揃って慶正卿へ、ひざまずいて頭を下げたりした。将監においても丁寧になり、恭しく慶正卿に一礼し、それから自身が先頭に立って、回教寺院めいた建物の側の、一宇の屋敷へ案内した。それは将監の屋敷らしかった。
ところで碩寿翁と刑部老人と、巫女の千賀子とはどうしたかというに、これも将監に案内されて、慶正卿につづいて将監の屋敷へ、同じく招待されたのであった。
で、その後は白河戸郷は、以前《まえ》ながらの平和に帰ったが、その平和には活気があって、明るさを加えたようであった。
これに反して丹生川平の方は、陰鬱の度を加えて来た。
わけても陰鬱になったのは、宮川茅野雄その人であって、ある日人目を避けなが
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