ちが似ているところから、新八郎の心を引くこととなり、新八郎はお品と睦んだ。がどうだろうそのお品も、二、三日前に松本伊豆守へ、用人の手から引き上げられてしまった。小間使いという名義の下に、どうやら妾にされたようであった。
お篠は派手な性質で、贅沢することが出来るのだったら、自分から進んで貴顕権門の、妾になるような女であった。
しかしお品の方はそうではなかった。こまやか[#「こまやか」に傍点]なつつましい情緒を持ち、ささやかな欲望に満足し、愛する男を一本気に愛する。――そう云ったような性質の女であった。
でお篠が自分を見捨てて権門の妾になったという、そういうことを知った時、新八郎は憎悪を感じた。
しかしお品が同じ身の上になったと、お品の母親によって聞かされた時、新八郎は可哀そうなと思った。が、どっちみち新八郎の心は、慰めのないものとなったのである。
そういう新八郎の眼の前に、お高祖頭巾を冠った女が、今忽然と現われて、謎めいた言葉をかけたのである。
(この女は何者なのであろう? ……どうして俺の身の上や、お品やお篠の身の上について、見通しのようなことを云うのであろう?)
疑惑を持たざるを得なかった。
(もう少し突っ込んで訊いて見よう)
こう新八郎は思い付いて、その女の方へ近寄ろうとした。
と、その女は歩き出した。
「ご婦人」
と新八郎は声をかけた。しかしその時にはもうその女は、そこの横手に延びている小広い横丁へはいっていた。
「しばらく」
と新八郎も横丁へはいった。が、すぐに「おや」と云った。女が四人の男達に、前後を守られていたからである。
(そうか)
と新八郎はすぐに思った。
(女は一人ではなかったのだ。以前《まえ》から男達があそこにいて、あの女を警護していたのだ)
(いよいよ不思議な女ではある)
五
女の一団は歩き出した。
(さてこれからどうしたものだ?)
このまま自分の家へ帰るか、それとも女の言葉に従い、×××町などを通り過ぎて、○○町まで歩いて行って、そこで逢うことになっている、異形の人数に逢ってみようか? ――新八郎はちょっと迷った。
(いやいやそれよりあの女の素姓と、住居《すまい》とを突き止める[#「突き止める」は底本では「突め止める」]ことにしよう)
新八郎の好奇心は、女の方へ向かって行った。で、先へ行く女の一
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