籠のまわりには十人の武士がピッタリ身体を寄せ合って、無言でトットと歩いている。不思議なことには十人の武士が十人ながら白い布で、厳重に覆面していることで、そして、男とは思われないほどその足並は柔弱である。
怪しいと見て取った紋十郎は、二人の同心へ合図をして、樹立《こだち》の蔭へ身を隠した。女乗り物の同勢はやがて坂を上り切り、ちょっと一息息を入れると、そのままズンズン行き過ぎようとする。
つと現われたのは紋十郎である。
「あいやしばらくお待ちくだされい」
慇懃《いんぎん》ではあるが隙のない声で、彼は背後から呼び止めた。女乗り物はピタリと止まり十人の武士は振り返った。
「深夜と申し殊には厳寒、女乗り物を担がれて方々は何処《いずれ》へ参らるかな?」
紋十郎はまず尋ねた。
白縮緬《しろちりめん》で覆面をした十人の武士はこう訊かれても、しばらくは返辞《いらえ》さえしなかった。無言で紋十郎を見詰めている。それがきわめて不遜の態度で嘲笑ってでもいるようである。
思慮ある武士ではあったけれど、紋十郎は若かったので、相手の様子に血を湧かせた。
「無礼な態度! 不埒《ふらち》千万! 見逃がしては
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