りかけられては敵《かな》う筈はない。……総司さんを討たれてなるものか!……いっそ妾が此奴《こいつ》を!)
と、肚《はら》を決め、
「嘉十郎さん、まア待っておくれ、お前が然うまで云うなら妾も決心して、今夜沖田さんの息の音とめるよ。……お前さんにしてからが然うじゃアないか、あの晩、二人でここへ来てさ、通りかかった脱走武士たちへ喧嘩を売りつけ、一人を叩っ斬ったのを見て、妾は植甚の庭へ駆込み、喧嘩の側杖から避けたと云って、沖田さんに隠匿《かくま》われ、そいつを縁に沖田さんへ接近《ちかづ》いたのも、お前と最初からの相談ずく、そこ迄二人で仕組んで来たものを、今になってお前さんに沖田さんを殺され、功を奪われたんじゃア、妾にしては立瀬が無く、お前さんにしたって、後口が悪かろう。……ねえ、沖田さんを仕止めるの、妾に譲っておくれよ。そうして懸賞の金は山分けにしようじゃアないか」
憎くない婦《おんな》からのこの仕向けであった。四十五歳の、分別のある嘉十郎ではあったが、
「そりゃアお前がその気なら……」
「委せておくれかえ。それじゃア妾は今夜沖田さんを、こんな塩梅《あんばい》に……」
と、右の手を懐中《
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