」
可成り広い池の対岸《むこうがわ》に、自然石《じねんせき》を畳んで、幅二間、高さ四間ほどの岩組とし、そこへ、幅さだけの滝を落としているのであって、滝壺《たきつぼ》からは、霧のような飛沫《しぶき》が立っていたが、池の水は平坦《たいら》に澄返り、濃い紫陽花《あじさい》のような色に澱《よど》んでいた。留吉は、詮索《せんさく》好きらしい眼付で、滝を見たが、
「でもねえ、親方、この庭の作りからすれば、あの滝、少し幅が広過ぎやアしませんかね」
「無駄事云うな」
と、植甚は、厭《いや》な顔をし、
「俺、ほんとは、手前の眼付、気に入らねえんだぜ」
「何故《なぜ》ね」
「女も欲しけりゃア金も欲しいっていうような眼付していやがるからよ」
「ほいほい。……あたり[#「あたり」に傍点]やした。……だがねえ親方、こんなご時世に、金なんか持っていたって仕方ありませんね」
「何故よ」
「脱走武士なんかがやって来て、軍用金だといって、引攫《ひっさら》って行ってしまうじゃアありませんか。……親方ア金持だというからそこんところを余程うまくやらねえと。……」
「うるせえ。仕事に精出しな」
劇《はげ》しく詈合《のの
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