躊躇《ちゅうちょ》があろう! 独木舟《まるきぶね》の船尾《とも》へ筏を纜《つな》ぎそれから屋根へ這い上がった。
それから梯子を下ったのである。
下へ下るに従って射し込む日光が薄くなり全く暗黒になってからも尚下へ下りなければならなかった。私はこっそり心の中でおおよその間数を数えながら下へ下へと下りて行った。
「十間、二十間、三十間……」
と、ここまで数えて来た時に梯子は既に尽きていた。それとも知らず私の足は次の桟木を踏もうとしてハッと空間に足を辷らせ真っ逆様に墜落した。
そして気絶をしたのであった。
私の意識が次第次第に恢復するように思われた。一人の老人が私の前に蝋燭《ろうそく》を持って立っている――しかし恐らく幻覚であろう――その老人を囲繞して宝石が無数に輝いている。黄金の兜、黄金の鎧、蝋燭の光に照らされて天上の虹が落ちたかのように燦々奕々《さんさんえきえき》と光を放し香の匂いさえ漂っている。
「何んという美しい幻覚であろう」
私は半分正気付いてこう口の中で呟いた。
「なんという立派な老人であろう――岩窟に住んでいる動物学者のあの老人にそっくりだ……幻覚よ、永く消えないで
前へ
次へ
全239ページ中233ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング