。窓々へ鎧戸《よろいど》を厳重に下ろして、屋内の燈火を遮断した、小柄の洋館《いえ》が立っている。園長の住んでいる官舎らしい。
 闇に馴れた眼をじっと据えてレザールは官舎を注視した。すると意外にも官舎の前の芝生の上に一団の、蠢《うご》めくものの形があった。よくよく見ると人間で、十人に近い人数である。円く芝生に胡坐《あぐら》をかき、額を土へ押しあてて何事か祈ってでもいるらしい。ブツブツといういとも小さい呟きの声が聞こえて来る。祈祷《きとう》の声ででもあるらしい。
 すると突然その中から一人の男が立ち上がった。やや明瞭《はっき》りと云うのを聞けば、それは回教《ふいふいきょう》の祈祷《いのり》であった。
「アラ、アラ、イル、アラ……唯一にして絶対なる吾らの神よ……吾らをして強くあらしめたまえ! 吾らをして敵を殺さしめたまえ! ……何物をも吾らより奪うなく、何物をも吾らに与えたまう神よ!」
 その男は両手を空へ上げ、手をあげたまま腰を曲げ、地面へその手の届くまで、上半身を傾むけた。それから再び腰を延ばし、両手で空を煽ぎ立てた。それからまたも腰を曲げ、地面へ両手を届かせた。そうしては延ばし、そうし
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