。そして木椅子や卓子が五人前ちゃんと揃っている。室は二つに仕切られてあった。奥の小部屋は寝室と見えてボロボロの寝具が敷かれてある。
「五人の勇敢な猟師どもがボルネオ虎や猩々や馬来《マレー》種の猪を獲るためにこの小屋の中に閉じこもって銃眼から猟銃を発《う》ったものらしい。沢山獲物が出来たので小屋をそのまま放擲《うっちゃ》ってどこかへ立ち去って行ったのだろう。風雨に曝らされた板壁の様子や床に積もった塵埃《ごみ》から推すと、三年、五年、もっと以前《まえ》から小屋は造られてあったものらしい」
 こう思いながら尚私は室の様子を見廻した。すると今まで気が付かなかったが室の片隅のテーブルの上に、果実《このみ》がうず高く積んであって椰子の実で拵えた椀の中に飲料水さえ盛ってある。ちょっと驚いて眼を見張ったがそれでもすぐに感付いた――
「眼に見えない例の恩人」が昼食を送ってくれたのだろう。
 そこで木椅子へ腰掛けて味の好い賜り物を頂戴した。それから小屋に別れを告げて縄梯子を伝って下りようとした。その縄梯子が見当らない。ほんの先刻まで掛かっていた棕櫚縄の梯子が見当らない。私は呆然と突っ立ったまま考えることさ
前へ 次へ
全239ページ中168ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング