た。しかし姿は苦力であるが、付け髯と付け眉とをかなぐり棄てた、生地《きじ》の容貌をよく見れば、思いきや、それは、羅布《ロブ》の沙漠で、私が裏切って捨てて逃げた、西班牙《スペイン》の花形、ラシイヌ大探偵! 私に何んの言葉があろう! ただもう恥じ入るばかりである。やにわに私は頓首した。それから左手の壁を見た。はたしてボタンが一つある。そいつを押すと、壁の一部が、そのまま一つの扉となり、ギーと内側へ開いた隙から、紅玉《エルビー》を抱えて飛び込むと、扉はハタと閉ざされた。
暗中にかかった階段を、私は紅玉《エルビー》を抱えたまま、上へと、命の限りに登って行った。
こうして階段を行き尽くし、ようやく地上へ出て見れば、そこは案外にも金雀子街の、他人の家の庭の空井戸であった。そしてもう夜は明けていた。……(備忘録終り――)
その翌日のことである。中華民国警務庁の、保安課の室に十四、五人のかなり重大な人々が、ラシイヌ探偵を取り囲んで、じっと話に聞き惚れていた。
「……まあそう云った塩梅《あんばい》で、いろいろ研究をした結果、形の見えない何者かが形の見えない糸をもって引っ張って行くという、その事実
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