がした。
「うむ、新左か、新左がいたのか! アッハハハ、そうであったか。……石川や浜の真砂は尽くるとも。……沙阿弥! 沙阿弥! 沙阿弥はいぬか!」
お坊主沙阿弥は迂濶りと、「ヘーイ」と大きな返辞をした。と、スルスルと沙阿弥の体は、隣の部屋まで引き出されて行った。
が、その後は何事も無かった。沙阿弥の死骸はその翌日、泉水の畔で見出された。
七
秀吉暗殺の壮図破れ、面目を失った五右衛門は、秀次の許を浪人! ふたたび剽盗の群へ這入った。
秀次が高野山で自尽した後、しばらくあって五右衛門も、新左衛門の手で捕えられた。
千鳥の香爐の啼音に驚き、仙石権兵衛の足を踏み、法術破れて捕えられたのでは無い。
瓜一つのために捕えられたのであった。
京師警備の任にあった、徳善院前田玄以法師が、或る日数人の従者を連れ、大原野を散歩した。その中には曽呂利新左衛門もいた。
それは中夏三伏の頃で、熱い日光がさしていた。
と、一つの辻堂があった。縁下から二本の人間の足が、ヌッと外へ食み出していた。そうして其の側に一つの瓜が、二つに割られて置いてあった。
一行はそのまま通り過ぎようとした
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