。
井上嘉門の領地内で、一騒動を起こしたが、自分も負傷して不具となった。左の片足を傷つけたのである。
福島へ出、名古屋へ出た。
生活の道がなかったので、とうとう乞食にまでおちぶれてしまった。
乞食仲間を煽動し、今宵逸見家を襲ったのは、金銭を得ようためだったのである。さて逸見家へ乱入して見れば昔の情婦で自分を裏切ったお妻が、意外にも姿を現わした。
「おのれ!」とばかり引っとらえたのである。
と、そこへ駈け込んで来たのが、嘉門とそうして多四郎とであった。
「陣十郎オーッ」
「あッ、逸見先生!」
陣十郎は仰天し、片手でお妻を小脇に抱くと、撞木杖を飛ばして走り出した。
「待て! 陣十郎オーッ」と追う多四郎を、乞食どもは遮った。
「邪魔するか汝《おのれ》!」と怒った多四郎が、刀を抜いた瞬間に、乞食を背後から斬り仆す者があった。
それは秋山要介であった。
「や、貴殿は秋山氏!」
「おおこれは逸見先生で」
「秋山氏には、どうしてここへ?」
「乞食ども怪しい片輪武士と、ともどもこの屋敷へ潜入いたしましたを、つけて参って拙者見届け、押込みと推し、ご注意いたそうと、拙者も潜入いたした次第で」
「その片輪武士こそ陣十郎でござる」
「ナニ、陣十郎? さようでござったか。……してそ奴、陣十郎めは?」
「お妻と申す女を奪い、たった今しがた逃げましてござる」
「追いましょう、逃がしてはならぬ」
「御意で! 追いましょう、遠くは行くまい!」
多四郎と要介とは走り出した。
乞食どもはいつか逃げ散っていた。
お妻を引っかかえた陣十郎は、この頃耕地を走っていた。
後から追って来る足音がする。
(どこかへ隠れて……隠れなければならない)
見れば一軒の農家があって、燈火の光が洩れて見えた。
(よしあそこへかくまって[#「かくまって」に傍点]貰おう)
陣十郎はそっちへ走った。
雨戸が一枚あいていて、人の姿がそこにぼんやりと見えた。
「狼藉者に襲われましたもの、しばらくおかくまい[#「おかくまい」に傍点]下されい」
「よろしゅござる」とその人は云い、一方へ躰を開いた。
本懐遂ぐ
で、燈火が雨戸の間から、ほのかながらも庭先へ射した。
「やア、汝は水品《みずしな》陣十郎オーッ」
「誰だ? やア鴫澤主水《しぎさわもんど》かアーッ」
縁に佇んでいた者は、鴫澤主水その人であった。
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