(澄江が水品陣十郎と、寝泊りをして旅をして来たとは!)
 このことが気鬱の原因であった。
 互いに過去の話をした時、このことを澄江は主水に話し、寝泊りして旅こそして来たが、躰に――貞操には欠けるところがないと、このことについては力説した。そこで主水もお妻と一緒に、寝泊りをして旅をして来たことを、きわめて率直に打ちあけて、そうしてやはり肉体的には、なんら欠点のないということを、澄江が安心するように話した。
 艱難辛苦をしたあげく、久しぶりで逢った主水と澄江とは、その邂逅に歓喜して、疑わしい過去のそういう生活をも、疑うことなく許し合った。
 が、その歓喜がやがて消えて、平静の生活に返って来ると、相互にこのことが疑われ出した。
 二人は兄妹とはいうものの、行く行くは夫婦になるべきところの、義兄妹であり許婚《いいなずけ》であった。
 そうして水品陣十郎が、父庄右衛門を殺害《さつがい》したのは、澄江に横恋慕した結果からのはずだ。
 その陣十郎と二人だけで、寝泊りして旅をして来たという!
 主水は苦悶せざるを得なかった。


 主水が苦悶すると同じように、澄江も苦悶せざるを得なかった。
(あの好色のお妻という女と、一つ宿に寝泊りして、旅をして幾日か来たからには、ただではすむべきはずがない。情交があるものと思わなければならない)
 苦悶せざるを得ないのであった。
 そういう二人の心持を――その苦しい心持を、カラリと晴らす方法はといえば、陣十郎とお妻とが現われて来て、その二人が自分の口から、そういう関係のなかったということを、証明するより外はなかった。
 ところが二人は二人ながら、主水たちの敵であり、その行衛《ゆくえ》は未だに知れない。従って二人の苦しい心持の、解け消える機会はないのであった。
「澄江殿」と他人行儀の、冷い口調で主水は云った。
「長の月日お父上の敵、陣十郎めを討とう討とうと、千辛万苦いたしても、今に討つことならぬとは、われわれ二人神や仏に、見放された結果かもしれませぬ……将来どのように探そうとも、陣十郎の行衛結局知れず……知れず終《じま》いになろうもしれませぬ……わしにとっては無念至極ではござるが、澄江殿にとってはその方が、かえってよいかもしれませぬのう……アッハッハッよいともよいとも!」
「…………」
 澄江は返事をもせず首垂れていた。
(また皮肉を仰有《お
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