、お館内の名器什宝を、盗み出すに相違ござりませぬ。隠語の文字女文字にござりますと、確かこのように申したのう。そこでわしはこの旨お館に申し、更に奥方様のお手を借り、大奥の腰元全部の手蹟を、残るところなく調べたのだ。するとどうじゃ、八重めの文字が、隠語の文字と同じではないか。そこで八重めを窮命したところ、盗人に相違ござりませぬと、素直に白状いたしおったわ」
「嘘だ!」と悲痛の主税の声が、腹の底から絞るように出た。
「八重が、八重殿が、盗人などと! 嘘だ! 信じぬ! 嘘だ嘘だ!」
しかし見る見る主税の顔から、血の気が消えて鉛色となった。
(もしや!)という疑惑からのことであろう。
そうして彼の眼――主税の眼は、頼母から離れて隣の部屋の、お八重の方へ移って行った。
「あッはッはッ、そう思うであろう。……恋女の八重が館の盗人! これは信じたくはあるまいよ。……が、事実は事実なのでのう、信じまいとしても駄目なのじゃ。……念のため八重自身の口から、盗人の事実を語らせてやろう」
勘兵衛の方へ顔を向けると、
「その猿轡はずしてやれ」と頼母は冷然とした声で云った。
つと勘兵衛の手が伸びた時には、お
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