考えこんだが、
「田安様の品物が盗まれました際、その責任は田安様の、誰人《どなた》に行くのでございましょうか?」と訊いた。
「それはまァ奥家老の松浦様へ」
「松浦へ! おお松浦頼母へ! ……では妾《わたし》あなた様の、加担者になるでございましょう! ……そうしてあの松浦頼母めを、切腹になと召し放しになと!」と女猿廻しは力を籠めて云った。
それでお八重は女猿廻しのお葉が、何かの理由で松浦頼母に、深い怨みを抱いていることを、いち早く見て取ったが、しかしお葉がどういう理由《わけ》から、松浦頼母に怨みを抱くかを、押して訊こうとはしなかった。
二つ目の独楽
とにかくこうして二人の女は、それ以来一味となり、お八重から渡す隠語を手蔓《つて》に、時と場所とを示し合わせ、お八重の盗み出す田安家の器物を、女猿廻しのお葉は受け取り、秘密の場所へ人知れず隠し、今日に及んで来たのであった。
(隠語の紙片が頼母様の手へ入った! ではお葉も頼母様のお手に、引っとらえられたのではあるまいか?)
これがお八重の現在の不安であった。
(いやいや決してそんなことはない!)
お八重はやがて打ち消した。
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