「ご免」と頼母は一揖してから、ツカツカと縁側へ出て行ったが、
「これ源兵衛何事じゃ※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と庭番の小侍へ声をかけた。
 小侍は走り寄るなり、地面へ坐り手をつかえたが、
「お腰元楓殿が築山の背後にて、頓死いたしましてござります」
「ナニ※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
 頼母は胸を反らせ、
「楓殿が頓死※[#感嘆符疑問符、1−8−78] 頓死とは?」
「奥方様のお吩咐《いいつけ》とかで、三人の腰元衆お庭へ出てまいられ、桜の花お手折り遊ばされ、お引き上げなさろうとされました際、その中の楓殿不意に苦悶され、そのまま卒倒なされましたが、もうその時には呼吸《いき》がなく……」
「お館様!」と頼母は振り返った。
「履物を出せ、行ってみよう」
 中納言家には立って来られた。
「それでは余りお軽々しく……」
「よい、行ってみよう、履物を出せ」
 庭番の揃えた履物を穿き、中納言家には庭へ出られた。
 もちろん頼母は後からつづいた。
 庭番の源兵衛に案内され、築山の背後へ行った時には、苦しさに身悶えしたからであろう、髪を乱し、胸をはだけた、美しい十九の腰元楓が、横倒しに倒れ
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