らしい。燈明の火がともっているらしい。
地面は苔でおおわれている。で、気味悪く足がすべる。
一所に小滝が落ちている。それに反射して月光が、水銀のようにチラチラする。
と、ほととぎすのなき声がした。
「まるで大名の下屋敷のようだ。その下屋敷の庭のようだ」
呟きながら旗二郎、築山のうしろまで行った時である。
築山の裾に岩組があり、それの蔭から黒々と、一個の人影が現われた。
「おや」
と思った時、掛け声もなく、スーッと何物か突き出した。キラキラと光る! 槍の穂だ! 黒影、槍を突き出したのである。
「あぶない!」
と思わず叫んだが、「何者!」と再度声を掛けた。とその時には旗二郎、槍のケラ首をひっ[#「ひっ」に傍点]掴んでいた。
と、黒影、声をかけた。
「先刻はご苦労、まさしく平打ち、ピッシリ肩先へ頂戴してござる。……で、お礼じゃ、槍進上! ……そこで拙者はこれでご免! ただしもう[#「もう」に傍点]一人現われましょう」
スポリとどこかへ消えてしまった。
団々と揺れるものがある。雪のように真っ白い。白牡丹の叢があるのであった。黒い人影の消えた時、恐らく花を揺すったのであろう。プーンと芳香が馨って来た。
「驚いたなあ、何んということだ。物騒千万、注意が肝腎。……槍進上とは胆が潰れる。……待てよ待てよ、何んとかいったっけ『先刻はご苦労、まさしく平打ち、ピッシリ肩先へ頂戴してござる』――ははあそうするとさっき方、この家の娘を門前で、かどわかそうとした奴だな? ……ふうむ、それではあいつらが、潜入をしているものと見える。いよいよ物騒、うっちゃっては置けない。葉末とかいう娘のため、ここの庭から駆り出してやろう」
ソロソロと進むと滝の前へ出た。
そこをよぎる[#「よぎる」に傍点]と林である。蘇鉄《そてつ》が十数本立っている。
と、その蔭から声がした。「これは結城氏結城氏、さっきは平打ち、いただいてござる。で、お礼! まずこうだ!」
ポンと人影飛び出して来た。キラリと夜空へ円が描かれ、続いて鏘然《しょうぜん》と音がした。パッと散ったは火花である。切り込んで来た敵の太刀を、抜き合わせた結城旗二郎、受けて火花を散らしたのである。
二人前後へ飛び退いた。
「お見事」と敵の声がした。「が、もう一人ご用心! ご免」
というと消えてしまった。
蘇鉄の頂きが光っている。
前へ
次へ
全26ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング