、やにわに二人を切り伏せた。そうして次の瞬間にはピッタリ岩壁へ身を寄せた。と、またパッと飛び込むと同じく二人を切り仆し、仆した瞬間には彼の体は既に岩壁へくっ付いている。
六人、八人、十人と、見る見る土人は切り仆されたが、紋太夫も体へ一、二箇所傷を負わざるを得なかった。
この凄まじい太刀風にまたもや土人軍は退却したが、その時忽然地下道を震わせ轟然たる大音響が鳴り渡り、それと同時にその時まで雲霞《うんか》のように集まっていたオンコッコ軍が数を尽くしバタバタと地上へ転がった。
濛々と立ち上る黄色い煙り、プンと鼻を刺す煙硝の匂い、誰か爆弾を投げたと見える。
あまりの意外に紋太夫は、驚きの眼を見張ったまま暫時《ざんじ》茫然と佇《たたず》んでいたが、忽ち煙硝を分け、二人の少年が現われたのを見ると、さらに驚きを二倍にした。
その少年こそ他ならぬジョン少年と日出夫である。
二十六
一方ジョージ・ホーキン氏は、地下人どもを相手とし、人骨製の槍をもって、悪戦苦闘を続けていた。五人の土人を突き伏せた時、自分も数痕《すうこん》を蒙《こうむ》ったが、そんな事にはビクともしない。さらに敵中へ飛び込んで行った。その時、耳朶《じだ》を貫いたのが大爆発の音響である。
これにはホーキン氏も驚いたが、一層驚いたのは土人達で、ワッという悲鳴を上げると共に十間余りも逃げ延びた。
で、ホーキン氏は振り返って見た。濛々たる煙り、累々たる死屍、その中から走り出た二人の少年のその一人が、自分の子のジョンだと知った時、その喜びと驚きとはほとんど形容の外《ほか》にあった。
「ジョンよ! ジョンよ! ジョンではないか!」
思わず大声で呼んだものである。
呼ばれたジョンはホーキン氏を見たが、
「あッ、お父|様《さん》だ! お父|様《さん》だ!」
歓喜の声を高く上げると、鞠《まり》のように飛んで来た。それをホーキン氏は両手を拡げひしとばかりに抱き締めた。
親子久しぶりでの邂逅《めぐりあい》である。死んだと思ったのが生きていたのである。……しばらく、二人は抱き合ったまま、一言も云わずに立っていた。涙が頬をつたわっている。
と、不意にジョン少年は地下人の群れを睨んだが、
「ああ、あいつらは土人ですね。憎い僕らの敵ですね。それでは僕退治てやろう」
云うより早く、ポケットから、れいの不
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