]夜も更けてからであった。
「とにかく手を分けて探すことにしよう。ああしかしどうもとんだことになった」
 そこで彼らは全軍を三つの隊に分けることにした。一隊をもって部落を守り、他の二隊は夜を冒して土人の本陣に向かうことにした。
 南に向かった一隊の将は、チャンバレンという予備大尉で非常に勇敢な人物であり、北に向かった一隊の将はジョンソンという会社員上がりで思慮に富んだ人物であり、部落守備の隊長はマコーレーという人物で、生まれながらの冒険家でありホーキン氏にとっては片腕であった。
 各隊の人数は百人ずつで、いずれも決死の覚悟をもって各※[#二の字点、1−2−22]《おのおの》の任務についたのである。

「みんな唄うがいい! みんな踊るがいい! 敵の大将を捕虜《とりこ》にしたぞ!」
 土人酋長オンコッコは、社殿の縁に突っ立ち上がり、さも得意気に喋舌《しゃべ》るのであった。
「……最初俺達は敵の大将ホーキンの子供を捕虜《とりこ》にした。そこで俺達は考えた。このジョンという子伜《こせがれ》めをどうぞうまく囮《おとり》につかって敵の大将をおびき[#「おびき」に傍点]出したいとな。……そこでジョンをふん[#「ふん」に傍点]縛り部落近くへ連れて行きピシピシ鞭《むち》で撲《なぐ》ったものさ。するとこっちの思惑通りジョンめ親父の名を呼んだものさ。そこで親父のホーキンめが一人でノコノコやって来た。それをだんだんおびきよせ[#「おびきよせ」に傍点]、以前《まえかた》係蹄《わな》をかけて置いた林の奥まで引っ張り寄せ、そこでうまうま捉えたというものだ! 何んと愚かな敵じゃないか! 何んと利口な俺達じゃないか! ……さあみんな唄ってくれ! 大きな声で唄ってくれ!」
 住み慣れた部落を惜し気なく捨てここ社殿へ住居《すまい》を移した千人に余る土人どもは、この酋長の話を聞くと老若男女一斉にワッとばかりに喊声を上げ、社殿の周囲《まわり》を廻り出した。
 体には刺青《ほりもの》、手には武器、頭や腰を羽毛で飾った兇猛無残の食人族が、不思議な身振り奇怪な手振りで、踊りつ唄いつ廻り歩く様子は、何んと形容しようもない世にも物凄い光景であったが、しかし間もなくそれ以上の恐ろしい光景が展開された。
「もうよかろう引っ張り出せ!」
 オンコッコが叫ぶと同時に社殿の扉が左右に開いて、まず現われたのはホーキン氏、次に引き
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