りますね。
使女A (女子を盗み見)若様がお勝ち遊ばして、お嬢様をお貰い遊ばすなら、どんなに若様はお喜びなさるでござりましょう。
使女B どんなにお嬢様もお安心なさるでござりましょう。
使女A 私は何となく、若様がお嬢様をお貰いなさるのではあるまいかと思われます。
使女B 私もそのように思われます。今にあの音楽堂の窓から赤い燈火が点ぜられ、注進の者が馬に鞭打ってこの館の門前まで駆けつけ、勝利者の名を高々にお呼び上げなさる時。
使女B そのお名は若様のお名らしく思われます。(女子は二人の使女の話を黙って聞き居しが、この時使女に向かい)
女子 若様のお相手をする人は、どんな人だか知っておいでかえ。
使女A 若様と音楽の競争をなさる人でござりますか。
女子 今夜若様と競技をなさる、その相手の人を知っておいでかえ。
使女B (Aと顔を見合わせ)昨夜の大変が起こらぬ前までは。
女子 前までは。
使女A 銀の竪琴を持っていた、白髪の老人が、若様のお相手と決まっていたのでござります。
使女B あの大変が起こって、その白髪の老人の行方が解らなくなりましたので、若様のお相手は、誰れに御変更なされたやら、私共は存じませぬ。
女子 昨夜の大変の起こらない前までは、若様のお相手は、あの白髪の老人だと云うのだね。
使女A 左様でござります。
女子 そんなら今夜の若様のお相手も、あの白髪の老人に相違ない。
使女B 何故でござります。
女子 何故と云うても。
使女A 何故でござります。
使女B あんな騒ぎをひき起こした老人が、今夜あたり、音楽堂へ姿を現わす気づかいはござりますまいに。
女子 そう思うと間違うぞえ。
使女A そんなら、あの老人は今夜の競技に出るのだとお嬢様はお思い遊ばすのでござりますか。
女子 しかも銀の竪琴を持って。
使女B ほんにそう覚しめすのでござりますか。
女子 あの老人は、昨夜唯一度現われて、それっきり姿を隠すような、卑怯な者ではないのだぞえ。
使女A どうしてお嬢様は、それを御存知でいらっしゃります。
女子 (小声にて)Fなる魔法使い、Fなる魔法使い!
使女B どうしてお嬢様はあの老人が、再び現われるとおっしゃるのでござります。
女子 私の呪詛《のろ》われた神経が、そうだと私に教えている故。
使女 呪詛われた神経が?
女子 私の呪詛われた神経が、今夜再びあの老人が音楽堂
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