議院建白を聞きてただちに起こりたるところのものなり。この第一種は幽欝民権論ともいうべきものにして、多くは在野征韓論者の変形にしてその論素は実に和漢歴史の智識より生ず、ゆえにその民権を唱えたるの危激なりしにかかわらず、民権拡張の道理にははなはだしき熱心を抱かず、目的はただ政府の二、三大臣のみにて政事を執り、在野の賢良とともにせざることを不満としてこれを痛く非難するに過ぎざるがごとし。されば西南戦争の鎮定とともに彼らはその旗幟《きし》を撤して、また前日のごとく危言激論を作《な》さざるに至れり。第二種はこれに反して快活民権論ともいうべく、浅薄ながらも西洋の学説を聞き、日本将来の政体は現時のごとく君主または二、三権臣の専制に任すべからず、文明国の風に倣い人民の権利を重んじ、人民の公議輿論をもって政をなさざるべからずと信じたるもののごとし。これ実に日本における自由主義の萌芽にして政論史上記臆すべき価あり。第三種の民権論者はこの期に在りて最新の政論者なり、吾輩これを翻訳民権論と名づくべし、彼らはみな昨日まで窓下に読書せし壮年もしくは新たに西洋より帰りたる人々なり。第二種の論者よりは幾分か多くの洋籍
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