ば国民論派〕より分かれたるものなり。その次に来たるべきは皇典保守論派とも言うべきものなり。この論派は自治論派とその根源をともにし旧帝政論派の遺類の一種なりとす。今便宜のために前期と関連してこの第四期政論の名称を左に掲げん。
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     〔第四期〕      〔第三期〕
(一)自由論派 〔旧〕┐
           ├     自由論派
(六)大同論派 〔新〕┘
(二)改進論派 〔旧〕      改進論派
(三)経済論派 〔旧〕      経済論派
(四)法学論派 〔旧〕      法学論派
(五)国民論派 〔新〕      未成
(七)保守論派 〔新〕      未成
(八)自治論派 〔新〕┐
           ├     帝政論派
(九)皇典論派 〔新〕┘
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 発生の順序をもってすれば頭上に冠したる番号のごとしといえども、もし前期との関係をもってすれば実に右に掲げたるごとく、おのおのそのよりて起こるところあり。しかしてまったくこの最後の期において新たに発生したるものはただ国民論派〔または国粋論派〕および保守論派の二派に過ぎず。しかれども吾輩はこの新論派を叙するに先だちて名称の新しき他の三論派すなわち大同論派、自治論派、皇典論派を略説せんと欲す。この論派がいかなる主義を保有するかは吾輩これを知るあたわずといえども、その政論上における傾向はややこれを窺うことを得べきなり。請うその大略を吟味し去りて相互の関係を明らかにせん。

     第二 大同論派

 大同論派は自由論派よりきたるものなるや明白なり。しかれどもその旨とするところはただ藩閥政治を攻撃して政党政治を立つるにあり、しかしてこの目的を達するには理論上の異同を棄てて事実上意見の大同を取るべからずと言うにほかならず。かくのごとくその論基はただ現実的問題にあり、これをもって一の論派として算するにはすこぶる難し。もし強いてこれが理想を探らばやはり自由論派の思想と同一ならんのみ。されば吾輩はここに理想を探ることをなさず、単にこの論派の傾きが当時いずれの論派に近かりしやを一言せん。彼実に自由論派よりきたる、ゆえにその傾向は自由論派を近しとすることこれ自然なり。しかれども自由論派の深奥なる理想は彼毫もこれを継承せざるのみならず、かえってこれに反対したるがごとき傾向あり。彼自由主義をもって非藩閥主義となすのみ、自由平等の理を取りて世界共通の人道となすがごとき理想は彼さらにこれを抱懐せず。ただ国権を拡張するの一事に至りては自由論派より継承したるがごとくなるも、その主旨はすなわち大異同あり、国権拡張は自由論派にありて個人自由を伸張する方法なれども、大同論派にありてはやはり国民の利益および名誉を計るにほかならず。彼また痛く政府の欧化主義に対して反対し、泰西模擬の弊は一国の滅亡に係るとまでに攻撃したり。この点においては新論派たる国民論派とすこぶる相合し、大同論派の代表者たる後藤伯が当時すなわち十九年二十年の交において国民論派の代表ともいうべき谷子と偶然にも条約問題に反対せしはいちじるしき事実なりとす。藩閥政府を非とするの一事をもって政論社会を動かしたることは、政論ありて以来いまだ大同論派より強大なるものあらず、吾輩は非藩閥論派としてこの功績を認むるに躊躇せず、しかして二十二年の条約問題に付いてもこの論派の勢力少なしとなさず、吾輩はこの点において国権論派の一種となす。

     第三 自治論派

 前期において帝政論派と称するものは実に二個の分子を包含せり。その一種なるドイツ帝政崇拝主義の論者はこの期に至りてまったく欧化主義を賛成したり、世に称する自治論派と言うはすなわちこれなり。自治論派は何の理想もなきもののごとし。ただ西洋と対等の交際をなさんには日本を西洋の風に陶化せざるべからず、西洋の風に陶化せんためにはまず人々が自らその財産を殖して生活の程度を高めざるべからず、人間万事金の世の中、道徳節操のごとき権利名誉のごときみな金ありてはじめてこれを言うべし、金なきものはともに国政を議すべからず、金を貴くするには奢侈を奨励せざるべからず、以上は自治論派の大旨なるがごとし。この点においてかの経済論派または改進論派とややその傾きを同じくし、自由論派、大同論派、また国民論派とは氷炭相容れざるの関係あり。この点においてはほとんど第一期の国富論派を再述するものにして西洋崇拝の一事は経済論派の一部たるキリスト論派に賛揚せられ、金銭崇拝の一事は経済論派そのものに賛揚せられたるがごとし。自治論派は政論と言わんよりはむしろ一種の経済論と言うべし。

     第四 皇典論派

 皇典論派もまた旧帝政論派の遺類にして皇道をもって天下を治めんと欲するものなり。この論
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