わち干渉主義と自治主義との異称と知るべし。なお通俗にこれを言えば政府と人民との関係にして、個人主義とはすなわち人民自治の領分を拡めんとの謂なるべし。同じく自治主義なり、しかして一は個人的自由に基づきて制限選挙および二局議院を主張し、一は公同的自由に基づきて普通選挙および一局議院を主張す、これ改進論派と自由論派との差違なり。この二論派とかの帝政論派とはともに立憲政体すなわち自由制度を主張して異同なかりき、しかして二論派は個人主義すなわち自治主義に傾きて帝政論派は国家主義すなわち干渉主義に傾く、その前者との差別はこれにて明白なるべし。次に自由にはまた人文自由すなわち個人が社会に対する自由と政治自由すなわち個人が国家に対する自由との別あり。政治自由は憲法または法律によりて生じ、人文自由は行政によりて定まる、しかしてその前者との関係を言えば人文自由は個人主義と国家主義とによりて消長し、政治自由とは個人的自由と公同的自由すなわち俗に言う国家的自由とによりて伸縮すべきものなり。例を挙げてこれを言えば法律をもって制限選挙を定め参政の自由〔政治自由の一種〕を制限するは個人能力の差別を認むるもの、すなわち個人的自由の勝利にして公同的自由の敗亡なり、すなわち行政において工業の賃銀を定め職人の自由〔人文自由の一種〕を保護するは国家主義すなわち干渉主義の勝利にして個人主義すなわち自由主義の敗亡なり。これによりてこれを見れば個人的自由とは差別上の自由にして国家的自由とは平等上の自由、別言すれば個人的自由の極度なり、また国家主義とは政府の干渉を是認する主義にして個人主義とはこれに反し人民の自治を主張する主義なり、世人は今日なおいまだこれらの区別を明らかにせざるがごとし、また人文自由とは社交上の自由にして政治自由とは国憲上の自由なり、しかしてかの自由論派はこの二者を混同したるがごとし。
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改進論派は貧富智愚の差別を深く考量して制限選挙および二局議院を主張せり。この点においては個人的自由の味方にして帝政論派と相近く自由論派とははなはだ遠し。改進論派は政府の干渉を排斥して人民の自治を主張しすなわち個人主義の味方なり。この点においては自由論派とはなはだ近くして帝政論派とはすこぶる遠し。改進論派は貧富強弱の懸隔を放任して優勝劣敗を常視し、政治自由の制限をば是認するも人文自由に係る干渉は痛くこれを排斥するがごとし、この点においては自由帝政の二論と相離るるや遠しと言うべし。改進論派は自由論派とともに主権在民の説を是認して帝政論派の主権在君論に反対したり。しかれどもその説は帝室および国会を一団となしてこれを主権所在の点となし、英国の例を引きて幾分か取捨を加えたるは自由論派と異同あり。改進論派は帝政論派とともに秩序と進歩とを重んじて自由論派の急激的変革に反対したり、しかれども内治の改良を主として国権の拡張を後にしたるは帝政論派と大いに異同あり。
改進論派は第一期の帝政論派たる国富論派より来たることはすでに前章に述べたるがごとし。さればかの国権論派の一後胤たる自由論派と相隔絶することは自然なりと言うべきか。この二論派はともに欧米の文物を取りて日本の改良進歩を図るの論派なり、しかれども自由論派はその祖先たる論派と同じく主として政治上の進歩を希望し、むしろ理想上の希望を国家の体制に抱く、しかして改進論派は国富上の進歩を期し、社会経済の改良を先にし、その方法として政体の改良を唱え政府の干渉を排斥したるがごとし。この論派は英国のリベラール派に擬したるものにして内治外政いずれも平和的進歩を主眼となす、ゆえに内治については急激改革の害を論じて秩序的進歩を主張し、外政については国権の拡張を後にして通商的交際を要務としたり、けだし破壊と戦乱とは経済世界においてもっとも悪事とするところなればなり。
自由論派はその論拠をつねに義理の上に置き、ただ人類を見て種族《クラツス》を見ず。しかして改進論派はもっぱら便益をもってその標準となし、社会に現存する自然の種族をばみなこれを正当視したり、この点においては改進論派はかの自由論派の理想主義に反対して一の現実論派なり。自由論派はただに日本人民の自由を希望するに止まらず、この自由のためにはまず国権を拡張し、延《ひ》きて東洋全体に自由主義を及ぼし、ついに世界各国に政法を立てんと希望したるは板垣氏の『無上政法論』に明らかなり、しかして改進論派は人智の劣等国力の微弱を自信し、なるべく国際関係を避けもって内治の進歩を主張し国権の消長をば後にしたり、この点においては該論派は海外に対して一種の保守論派なりき、以上はその自由論派と著しく相違せる大要にして第四期の政論界に至り大いに衝突を起こせしゆえんなりと思わる。然りといえども自由論派が権利
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