その気焔を吐き、処々の有志者を促して国会開設の請願をなさしめたり、ついに国会期成同盟会なるものは成立せり。この同盟会なるものはすなわち第二期政論より第三期に遷《うつ》るの連鎖にして、なお第一期の後における民選議院建白とほとんど同一の効力ありき。次に第三期の政論に前駆をなしたるがごときものは大隈参議の退職なり。この政事家はさきに征韓論に不同意なりし人なり、多分かの民選議院建白にも不同意なりし人なり、大久保参議の時代には現政府の順良なる同意者なりき、しかして当時に至りにわかに政府に反対して民間の国会論者に同意を表したり。この政事家は国権論派にあらずして国富論派なりき、政事上に向かっては板垣氏その他の人々に比してむしろ保守主義の人なるや疑いなし。しかして十三年の当時にあり速やかに国会を開設すべきことを発論し、他の内閣員に合わずして職を退きたり。この一政変は第三期の政論にすこぶる大なる誘起力を与え、期成同盟会に入らざりしかの翻訳的論派は一変して一の強大なる政論派を成すに至れり。しかして隠然保守主義を取りたる折衷的論派はまったく政府の弁護者となりて他の二政論派に反対をなしたり、これを第三期政論の啓端となす。
第二 新自由主義
国会期成同盟会なるものは往時の民選議院建白を宗として起こりしもののごとし。しかれどもその六、七年間において政論状態は一変し、民権論派なるもの四種に分かれて并立したることは実に第二期の政論派なりき。この四種のうち第一種の慷慨派は十年の役とともにほとんどその形を失いたるも、残余の分子は他の三種に合して当時ふたたび国会請願の連中に入れり。期成同盟会は種々の分子をもって成立したるものなれば、あたかも昨年春の大同団結に類するものあり。すなわち各種の心事をもって同一の事業に向かうゆえに同盟会なるものは一の論派としてここに加うるの価格はあらず、吾輩はただ二期の連鎖としてこれを挙げんのみ。第三期の政論派は当時まさにその萌芽を吐きたり。しかしてここに新自由主義というべき一派はにわかにその間に発生し、従来の快活的民権派に新しき武器を供給したるがごとし。吾輩は仮りにこれを名づけて新自由論派と言わん。今のベルリン駐※[#「答+りっとう」、第4水準2−3−29]《ちゅうさつ》公使なる西園寺侯は新たに仏国より帰りて、二、三の同志を糾合し、たとえ暫時なりとも『東洋自由新聞』を発行せしこと、および今の兆民居士、中江篤介氏が帷を下して徒を集め、故田中耕造氏らとともに仏国の自由主義を講述しもって『政理叢談』を刊行せしことは、これ実に自由論派の嚆矢《こうし》というべきか。
新自由論派は第二期の政論派よりもその民権を説くにおいては一層深遠なりき。何となれば彼らは、事実の上に論拠を置くことをなさず、西洋十八世紀末の法理論を祖述し多く哲学理想を含蓄したればなり。中江氏らのおもに崇奉せしはルーソーの民約論なるがごとく、『政理叢談』はほとんどルーソー主義と革命主義とをもってその骨髄となしたるがごとし。その説の大要に以為《おもえ》らく、「自由平等は人間社会の大原則なり、世に階級あるの理なく、人爵あるの理なく、礼法慣習を守るべきの理なく、世襲権利あるの理なく、したがって世襲君主あるの理なし、俗は質朴簡易を貴ぶ、政は君主共和を尚ぶ」と。要するに新自由論派はかのルーソーとともに古代のローマ共和政を慕うこと、なお漢儒が唐虞三代の道を慕うがごとくなりき。その説は深遠にしてかつ快活なるがごとく、一時は壮年血気の士をして『政理叢談』を尊信せしむるに至れり。この論派の特色は理論を主として実施を次にし、いわゆる論派《スクール》たるの本領を具えたることこれなり。その一時世に尊信せられたるは実にこの点にあり、しかしてその広く世に採用せられざりしもまたこの点に在り。ついにこの論派はかの快活民権論派に合してこれに理論の供給をなすに至れり。
第三 自由改進帝政の三派
すでにして快活民権派の泰斗《たいと》、今の板垣伯は自由党なるものを組織し、次に翻訳民権派は今の大隈伯を戴きて改進党を組織せり、しかして二派ともに時の政府に向かいてその論鋒を揃えたり。ここにおいてかの折衷民権派たりし福地氏は明らかに政府の弁護者となり、他の守旧論派と連合してもって帝政党を作り、自由・改進二派と正反対の位地に立ちて論戦を開くに至れり。この三派は実にわが国政党の嚆矢なりといえども、吾輩はやはり論派としてこれを吟味せん。第三期の政論派は当時政界の現状に対し明らかに保守と進歩との二極を代表したり。その進歩派と称すべきはすなわち自由論派にして保守派と見做すべきはかの帝政論派なり、しかしてこの両極の間に立ちたるものは改進論派と名づくべき温和的進歩党なりき。吾輩はこの三派各個の論旨を吟味するの前
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