中を横小路の方へ引張って大通りに出ると、自動車を止めるために手を挙げた。小路では益々いい気になった玄竜の喚き声が続いていた。
五
とうとう天には上れなかったのだ。翌朝彼はやはりいつものように穴部屋の中で、苦しそうに悲鳴を上げると共に目を覚した。誰かに縄で首をしめられる悪夢にとりつかれたのである。体は汗びっしょりだった。何しろ体を動かすのが怖ろしいようで、再び目をつぶり息ばかり激しく喘いだ。本当に首の方は大丈夫なのだろうかとわくわくふるえつつさわってみようとして、手を持って行こうとしたとたんに、何かごついものに手先がふれたのでびっくりした。本当だなと思い、目をつぶったままじっと息をころした。全く祈るような気持になって、今度は憚るようにそうっと反対の方の手を出して用心深そうに首筋の方へ近づけようとした。おや、そうでもないらしいぞと思う矢先に何かが又指先にふれてぎょっとし、そのまま仏像のように固くなった。ものの二三分もしたであろうか、やっとこさ心を落着けて、それは一体何だろうかともう一度つついてみようとした。気のせいか今度は触れたものが少しばかり揺れたようである。何だかおかしいぞと思って二つの指で挟んでみて、おやおやと引きずられるままにそれをまさぐっていたかと思うと、
「なあんだ!」とあきれ返ったように叫びながら、彼は首筋の所へおいかぶさっているものを慌てて払いのけるのと同時にはね起きた。それはがさがさと物音をたてて吹っ飛び温突《オンドル》の上で揺れている。他ならぬ、泥まみれになった桃の枝だったのだ。彼はふーと大きく息を吐き出し手で首筋の汗をふいていたが、急に気でもふれたようにけらけらと笑った。が、瀬戸物でもこわれたような自分の声までちっとも変っていないので、彼はいよいよもう大丈夫だと胸を撫で下した。
むさくるしい部屋の中が尚薄暗いところからすれば、まだ朝は早いようである。一日中これっぽっちも陽の当らない穴ぐらのような所ではあるが、でも彼には紙張障子の明るさ加減が時計のかわりになっていた。裏の方に続いた台所の土間では、老婆が今日も亭主と喧嘩をしているらしく何かを突慳貧《つっけんどん》に喚きたてながら焚口に火をくべていた。土間に一杯たちこめた煙が温突紙のやぶけたところや、障子の穴、壁の割れ目等からもやもやと侵入して来る。彼は息がむせるようで二三度
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