供たちにつかまって、全《まる》で鳩飼いじいさんのようになるのだった。甲は肩にのり、乙は腕にすがりつき、丙はしきりに私の前を小躍りしながらはね上る。幾人かは私の洋服や手を引張り、或は後から声を立てて押しやって私の部屋まで来る。そこで戸を開けようとすると、もはや先からはいって待ち伏せていた子供たちが、一生懸命になって開けさせまいとしている。こちらでも子供たちが蟻のようにたかってしきりに開けようとする。こういう時にきまって山田春雄ははたから邪魔をするのだった。
「ほっときなよ。ほっときなよ。あーあーあー」
 と叫びながら、私の鼻先の前で気味よさそうにひょうきんな踊りをしてみせた。とうとうこちらが凱歌を上げてなだれ込んで行くと、室内では先から待ち構えていた六七人の少女がきゃあきゃあしながら悦び立てた。
「南《みなみ》先生! 南先生!」
「あたいも抱っこして」
「あたいも」
「あたいも」
 そう云えば私はこの協会の中では、いつの間にか南《みなみ》先生で通っていた。私の苗字は御存じのように南《なん》と読むべきであるが、いろいろな理由で日本名風に呼ばれていた。私の同僚たちが先ずそういう風に私を呼んで
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