ら図表下部解説文]
実験中最初の四週間においては、食事給与を受けたる児童の体重は、一週日平均六オンスの増加を示した。ことに最初の一週日間においては、その増加最も急激にして、平均一ポンド四オンスであった。かくて実験期間を通じて、食事給与を受けたる児童の体重は平均二ポンド八オンスふえたが、給与を受けざりし者の体重は一ポンド四オンスふえたに過ぎぬ。
(一オンスはわが七匁五五九、一ポンドは十六オンスにして百二十匁余に当たる)
[#ここで図表下部解説文終わり]
 そこでこのブラッドフォード市においては、なんらの躊躇《ちゅうちょ》なく、いよいよ大規模に食事の公給を開始することとなり、かくて今日同市の設備は、この種の経営中世界最美のものなりと称せらる。すなわち因《ちな》みをもってその組織設備の一斑を述べんに、通学児童は何人にても自由に食事の給与を受け得らるれども、ただ無料にてこれを受けんとする者に対しては、委員においてその児童の家庭の状態を調査し、その事情に応じて無料の給与を許し、あるいは実費の一部ないし全部を納付せしむることとす。児童はその社会階級のいかんを問わず、すべていっしょに同じ食堂で食事を取る。無料にて給与を受くる者も、実費の一部または全部を負担する者も、すべてその間に取り扱いの差異を設けず。従うて児童自身は互いに全くそれらの消息を知らぬのである。食事の調理には、営養学上専門の知識を有する者その監督に当たり、助手五人その下にあってもっぱらこれに従事す。炊事場には最も進歩したる新式の設備を備え、一日よく一万人分の食事を供給しうるの装置を設く。その創設費約四万円、経常費は一九〇八年より同九年にわたる一会計年度において、食料を除き、役員の手当、設備の維持、修繕費等を合算して八万円弱である。しかして同年度において供給された食事の数は約百万にして、そのうち四分の一は朝飯である。一個年を通じて食事を取った児童数の最も多い日は五千五百人で一個年間の平均は一日二千七百人になっている。そのうち食費の全額または一部を納めたるものは、一日平均二百四十人である。
 以上がブラッドフォード市における食事公給事業の一斑であるが、実はこれは一例に過ぎぬので、かくのごとき事業は今日英国の諸地方において実行されつつある。現に教育院の年報によれば、食事公給条例の通過した翌年度の終わりには、かかる事業を公営
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