ら》の鐘いま大砲《おほづつ》となる
とつくにの行列買をあざけりし日本人《につぽんじん》が今は列成すも
権力の命ずるがままに寝返れる女郎《ぢよらう》の如き学者ぞあはれ
おしなべて富める家庭はひややかに貧乏夫婦はよく喧嘩すも(原君の手紙の中に夫婦喧嘩のことなど書きありしより、自らも省みて)
末梢の些事を女房と争ひて怒れる我は見るにみにくし
身をおくにせまき家居をかこたざれせまき心ぞ恥づべかりける
貧しかる狭き家居も住む人のひろき心に家ぬちうるほふ
もろもろの物資ともしくなる〔な〕べに盗みごころの日々《ひび》にはびこる(銭湯にて屡※[#二の字点、1−2−22]シャツを盗まるる由聞きて)
[#地から1字上げ]十二月二十六日
配給の餅は一升四合ゆゑ湯山の餅はうれしかりけり(熊本県水山[#「山」に「〔上〕」の注記]村湯山の北御門氏より重ねて餅を送り来たる)
朝あけに水道氷り北山は雪まだらなる冬となりけり
おしなべて読む物よりも食《を》し物〔を〕喜ぶ老に我は入りけり(鈴木安蔵自著を寄せられしに対し)
[#地から1字上げ]十二月二十九日
ひとやにて八年《やとせ》まへより聞きゐたる浸[#「浸」に「〔進〕」の注記]々堂のパンをけふ食《は》む
わが友の日本一ぞと褒めゐたるパン屋のパンも今あはれなり
列なしてただ一きれのパン食むと街《まち》にあふれて待ちゐる人々[#地から1字上げ]十二月三十日
除夜なれどこよひは除夜の鐘聞かず寺々の鐘みな武器となり[#地から1字上げ]十二月三十一日
底本:「河上肇全集 21」岩波書店
1984(昭和59)年2月24日発行
底本の親本:「河上肇著作集第11巻」筑摩書房
1965(昭和40)年
初出:「河上肇著作集第11巻」筑摩書房
1965(昭和40)年
※漢詩の白文に旧字を用いる扱いは、底本通りです。
※底本はこの作品で「門<日」と「門<月」を使い分けており、以下では、「門<月」を用いています。
・※[#「門<月」、76−下−12]窗枕帙夢江南 ※[#「門<月」、76−下−12]窓帙を枕として江南を夢む。
・※[#「門<月」、77−上−5]居空戀人 ※[#「門<月」、77−上−5]居して空しく人を恋ふ。
・閑客※[#「門<月」、85−下−15]尋遂志軒 閑客※[#「門<月」、85−下−15]に尋ぬ遂志軒、
・※[#「門<月」、87−下−16]拂緑絨埃 しづかに緑絨の埃を払ふ。
・共吾等樂晩年之※[#「門<月」、90−下8]適也、
・※[#「門<月」、93−下−1]尋古佛祠」 ※[#「門<月」、93−下−1]《カン》に古仏の祠《ほこら》を尋ぬ。
※底本では、短歌に改行なしで続く括弧書きは、折り返し以降が1字下げになっています。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※〔〕書きされた部分は編集部が付したものです。本文内の〔〕は編集部の追加及び脱字を補ったもの、注記された〔〕は誤りを正したものです。
入力:はまなかひとし
校正:林 幸雄
2008年10月3日作成
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