散らまく惜しも。
[#地から1字上げ]三月二十五日

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原鼎君寄書見論王安石詩、因繙臨川集累日、
偶春闌而花滿城
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投老潛窮巷  老に投じて窮巷に潜み、
姓名世莫知  姓名世の知る莫し。
穿櫺春夜月  櫺を穿つ春夜の月、
誰對半山詩  誰《た》ぞや半山の詩に対す。
[#地から1字上げ]四月一日

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南窓小庭纔二坪餘、頃日青苔殆覆盡、余愛其如天鵞絨、毎倦書、下堂而坐石、細抽雜草、遂不留纖塵
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春霄煙雨後  春霄煙雨の後、
※[#「くさかんむり/出」、第3水準1−90−76]※[#「くさかんむり/出」、第3水準1−90−76]填庭苔  ※[#「くさかんむり/出」、第3水準1−90−76]々たり庭を填むの苔。
慇懃抽雜草  慇懃に雑草を抽き、
間拂緑絨埃  しづかに緑絨の埃を払ふ。
[#地から1字上げ]四月一日

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洛中新居適意多
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此地曾居住  此の地曾て居住、
江山故舊情  江山故旧の情。
行藥鳧堤上  鳧堤のほとりを行薬《かうやく》すれば、
衰楊掃石迎  衰楊石を掃うて迎ふ。
[#地から1字上げ]四月二日

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義弟大塚有章、幽囚十年、出獄而未旬日、
忽將赴于滿洲、遂不得會、賦詩遣懷
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十年曾一別  十年曾て一別、
此日君歸家  此の日君家に帰る。
問更向何處  問ふ更に何れの処にか向ふ。
不堪對落花  落花に対するに耐[#「耐」に「〔ママ〕」の注記]へじ。
[#地から1字上げ]四月五日

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添夢龍居士所製此君筆奉呈間宮青龍老師
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貧居無所有  貧居有る所無し、
聊贈一毛錐  聊か贈る一毛錐。
頼破臥龍夢  頼《さいはひ》に臥竜の夢を破れ、
春光嬾困時  春光嬾困の時。
[#地から1字上げ]四月十四日

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訪洛北栖賢禪寺、寺者係青龍老師之創建、
雖師平生言私淑良寛上人、堂宇宏壯、不似
五合庵遠、因呈一絶
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堂廡輪奐寺門新  堂廡輪奐、寺門新たなり、
師曰求貧不得貧  師曰く貧を求めて貧を得ずと。
淪落小儒聊足慰  淪落の小儒聊か慰むに足る、
暮年自是賤貧身  暮年おのづから是れ賤貧の身。
[#地か
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