嗤衰翁索居情  嗤ふに堪へたり衰翁索居の情。
[#地から1字上げ]三月十二日

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偶成(對鏡似田夫)
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形容枯槁眼※[#「目+多」、第4水準2−81−94]昏  形容枯槁、眼《まなこ》※[#「目+多」、第4水準2−81−94]昏《シコン》、
眉宇纔存積憤痕  眉宇纔に存す積憤の痕。
心如老馬雖知路  心は老馬の如く路を知ると雖も、
身似病蛙不耐奔  身は病蛙に似て奔るに耐へず。
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轉句借放翁詩
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[#地から1字上げ]三月十四日

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交情囘首薄如煙
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虚名泯去老殘身  虚名泯び去る老残の身、
始見人情眞不眞  始めて人情の真と不真を見る。
昨夜燈下交膝客  昨夜灯下交膝の客、
今朝忽作路傍人  今朝忽ち路傍の人と作《な》る。
[#地から1字上げ]三月二十四日

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辛巳初春、殘寒未去時、氷谷博士遊于志賀
高原、見寄殘雪句、(残雪や浮世の風の来
ぬあたり、)賦詩乞正
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當年同是讀書人  当年同じく是れ読書の人、
今日獨空歎老身  今日独り空しく老身を歎ず。
高原踏雪君搜句  高原雪を踏んで君は句を捜め、
陋巷擁爐我待春  陋巷炉を擁して我は春を待つ。
[#地から1字上げ]四月九日

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偶成
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身攀錦江再生縁  身は攀づ錦江再生の縁、
心似香山放妓年  心は似たり香山放妓の年。
壯圖如夢落花夕  壮図夢の如し落花の夕、
老殘寒儒誰爲憐  老残の寒儒誰か為めに憐まん。
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南洲與僧月照投于錦江灣。白樂天晩年住于香山自號香山居士。
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[#地から1字上げ]四月九日

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原鼎君見贈陸放翁全集、喜甚、賦詩謝之
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放翁詩萬首  放翁、詩、万首、
一首直千金  一首千金に直《あたひ》す。
擧付斯茅宇  挙げて斯の茅宇に付し、
教誇月色深  月色の深きを誇らしむ。
[#地から1字上げ]四月二十四日

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心平
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心平無厭夢  心平かにして厭夢なく、
身靜有良朋  身静かにして良朋あり。
愛此殘春夕  此の残春の夕を愛し、
悠然待月昇
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