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原作 世上風塵事何嘗至此間欲窮飛鳥処
洗竹出前山
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世の塵もこのほとりへはよも来まじ居向ふ山に飛ぶ鳥の跡を見ばやと竹をすかしぬ[#地から1字上げ]十一月二十六日
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閑居 二首
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陽を負ひて障子張りつつ歌思ふ閑居の昼のこののどけさよ
晴れし日を南《みんなみ》の縁に孫だきて陽を浴びをれば飛行機通る
[#地から1字上げ]十二月十一日
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獄中の思出
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茶も飲めず話も出来ず暮れてゆく牢屋の冬はさびしかりしも[#地から1字上げ]十二月十一日
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郷里より柚味噌来たる
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手製《てづく》りて母のたまひしものなればこの柚味噌は拝《をが》みてたうぶ
手製りて送りたまひし柚味噌の焼くる匂ひに今朝もほゝゑむ[#地から1字上げ]十二月二十一日
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荻窪天沼の寓居は北裏に広々としたる田畑あり、出獄後の身にとりては、郊外の散歩殊に楽しかりき
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一杯に陽を浴びし裏の畑道こゝろのまゝに行きては戻る
行き行けば疲れし頃に小橋あり腰をおろして煙草のむべく
畑中の小溝の水は澄みわたりゆらぐ藻草の美しきかな
つぎ/\に拓かれてゆく郊外に取り残されし稲荷のやしろ
畑中の小高き丘の松蔭の洋館のあるじ誰ならむ
藁葺にまじりて白堊の家もあり赤き屋根あり青き屋根あり[#地から1字上げ]十二月二十二日
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歳暮 二首
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老妻を喜ばさんと欲りすれど金もはいらで歳はくれゆく
白粥に柚味噌添へて食《たう》べたり奥歯のいたむ霜寒の朝
[#地から1字上げ]十二月二十七日
[#改段]
〔昭和十三年(一九三八)〕
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刑余安逸を貪る
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一
膝を伸ばせば足が出る、
首を伸ばせば枕が落ちる、
覗き穴から風はヒュー/\。
ほんたうに冬の夜の
牢屋のベッドはつらかつた。
二
今は毛布の中にくるまり、
真綿の蒲団も柔かに、
湯タンポで脚はホカ/\。
ほんたうに仕合せな
今歳の冬は弥生の春よ。
[#地から1字上げ]一月九日
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閑居
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盡日無人到 尽日人の到るなく、
時紛不復聞
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