家は遂にあの土地には来てくれないのだろうか。
 最初の北海道の長官の黒田という人は、そこに行くと何といっても面白いものを持っていたようだ。あの必要以上に大規模と見える市街市街の設計でも一斑を知ることか出来るが、米国風の大農具を用いて片っ端からあの未開の土地を開いて行こうとした跡は、私の学生時分にさえ所在に窺い知ることが出来た。例えば大木の根を一気に抜き取る蒸気抜根機が、その成効力の余りに偉大な為めに、使い処がなくて、※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]《さ》びたまゝ捨てゝあるのを旅行の途次に見たこともある。少女の何人かを逸早く米国に送ってそれを北海道の開拓者の内助者たらしめようとしたこともある。当時米国の公使として令名のあった森有礼氏に是非米国の婦人を細君として迎えろと勤めたというのもその人だ。然し黒田氏のかゝる気持は次代の長官以下には全く忘れられてしまった。惜しいことだったと私は思う。
 私は北海道についてはもっと具体的なことが書きたい。然し今は病人をひかえていてそれが出来ない、雑誌社の督促に打ちまけて単にこれだけを記して責《せめ》をふさいでおく。



底本:「北海道文学全集
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