ないものとなってしまっている。この間も長く北海道にいたという人に会って話した時、あすこにいる間はいやな処だと思うことが度々あったが、離れて見ると何となくなつかしみの感ぜられる処だなといったら、その人も思っていたことを言い現わしてくれたというように、心から同意していた。長く住んでいた処はどんな処でもそういう気持を起させるものではあろうが、北海道という土地は特にそうした感じを与えるのではないかと私は思っている。
北海道といってもそういうことを考える時、主に私の心の対象となるのは住み慣れた札幌とその附近だ。長い冬の有る処は変化に乏しくてつまらないと人は一概にいうけれども、それは決してそうではない。変化は却ってその方に多い。雪に埋もれる六ヶ月は成程短いということは出来ない。もう雪も解け出しそうなものだといらいらしながら思う頃に、又空が雪を止度《とめど》なく降らす時などは、心の腐るような気持になることがないではないけれど、一度春が訪れ出すと、その素晴らしい変化は[#「素晴らしい変化は」は底本では「素晴しらい変化は」]今までの退屈を補い尽してなお余りがある。冬の短い地方ではどんな厳冬でも草もあれ
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