いるらしい子供の脚を見たように思った。
 彼がしかしすぐに顔を前に戻して、眼ざしている家の方を見やりながら歩みを早めたのはむろんのことだった。そしてそこから四、五間も来たかと思うころ、がたんとかけがねのはずれるような音を聞いたので、急ぎながらももう一度後を振り返って見た。しかしそこに彼は不意な出来事を見いだして思わず足をとめてしまった。
 その前後二、三分の間にまくし上がった騒ぎの一伍一什《いちぶしじゅう》を彼は一つも見落とさずに観察していたわけではなかったけれども、立ち停《どま》った瞬間からすぐにすべてが理解できた。配達車のそばを通り過ぎた時、梶棒の間に、前扉に倚《よ》りかかって、彼の眼に脚だけを見せていた子供は、ふだんから悪戯《いたずら》が激しいとか、愛嬌《あいきょう》がないとか、引っ込み思案であるとかで、ほかの子供たちから隔てをおかれていた子に違いない。その時もその子供だけは遊びの仲間からはずれて、配達車に身をもたせながら、つくねんと皆んなが道の向こう側でおもしろそうに遊んでいるのを眺めていたのだろう。一人坊《ひとりぼ》っちになるとそろそろ腹のすいたのを感じだしでもしたか、その子
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