踏みかけては他の道に立ち帰り、他の道に足を踏み入れてなお初めの道を顧み、心の中に悶《もだ》え苦しむ人はもとよりのこと、一つの道をのみ追うて走る人でも、思い設けざるこの時かの時、眉目《びもく》の涼しい、額の青白い、夜のごとき喪服を着たデンマークの公子と面を会わせて、空恐ろしいなつかしさを感ずるではないか。
いかなる人がいかに言うとも、悲劇が人の同情を牽《ひ》くかぎり、二つの道は解決を見いだされずに残っているといわねばならぬ。
その思想と伎倆《ぎりょう》の最も円熟した時、後代に捧ぐべき代表的傑作として、ハムレットを捕えたシェクスピアは、人の心の裏表《うらおもて》を見知る詩人としての資格を立派に成就した人である。
一三
ハムレットには理智を通じて二つの道に対する迷いが現われている。未だ人全体すなわちテムペラメントその者が動いてはいない。この点においてヘダ・ガブラーは確かに非常な興味をもって迎えられるべき者であろう。
一四
ハムレットであるうちはいい。ヘダになるのは実に厭《いや》だ。厭でもしかたがない。智慧《ちえ》の実を味わい終わった人であってみれば、人として最上の
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