か。ところがこの二つの道に踏み跨がって、その終わるところまで行き尽くした人がはたしてあるだろうか。
五
人は相対界に彷徨《ほうこう》する動物である。絶対の境界は失われた楽園である。
人が一事を思うその瞬時にアンチセシスが起こる。
それでどうして二つの道を一条に歩んで行くことができようぞ。
ある者は中庸ということを言った。多くの人はこれをもって二つの道を一つの道になしえた努力だと思っている。おめでたいことであるが、誠はそうではない。中庸というものは二つの道以下のものであるかもしれないが、少なくとも二つの道以上のものではない。詭弁《きべん》である、虚偽である、夢想である。世を済《すく》う術数である。
人を救う道ではない。
中庸の徳が説かれる所には、その背後に必ず一つの低級な目的が隠されている。それは群集の平和ということである。二つの道をいかにすべきかを究《きわ》めあぐんだ時、人はたまりかねて解決以外の解決に走る。なんでもいいから気の落ち付く方法を作りたい。人と人とが互いに不安の眼を張って顔を合わせたくない。長閑《のどか》な日和《ひより》だと祝し合いたい。そこで一つの迷
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