二つの道
有島武郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)揺籃《ようらん》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)心|尤《とが》めされぬ者
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   一

 二つの道がある。一つは赤く、一つは青い。すべての人がいろいろの仕方でその上を歩いている。ある者は赤い方をまっしぐらに走っているし、ある者は青い方をおもむろに進んで行くし、またある者は二つの道に両股をかけて欲張った歩き方をしているし、さらにある者は一つの道の分かれ目に立って、凝然として行く手を見守っている。揺籃《ようらん》の前で道は二つに分かれ、それが松葉つなぎのように入れ違って、しまいに墓場で絶えている。

   二

 人の世のすべての迷いはこの二つの道がさせる業《わざ》である、人は一生のうちにいつかこのことに気がついて、驚いてその道を一つにすべき術《すべ》を考えた。哲学者と言うな、すべての人がそのことを考えたのだ。みずから得たとして他を笑った喜劇も、己《おの》れの非を見いでて人の危きに泣く悲劇も、思えば世のあらゆる顕《あら》われは、人がこの一事を考えつめた結果にすぎまい。
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