二つよりない。一つは第三階級に踏みとどまって、その生活者たるか、一つは第四階級に投じて融け込もうと勉《つと》めるか。衝動の醇化ということが不可能であるをもって、この二つに一つのいずれかを選ぶほかはない。私はブルジョア階級の崩壊を信ずるもので、それが第四階級に融合されて無階級の社会(経済的)の現出されるであろうことを考えるものであるけれども、そしてそういう立場にあるものにとっては、第四階級者として立つことがきわめて合理的でかつ都合のよいことではあろうけれども、私としては、それがとうてい不可能事であるのを感ずるのだ。ある種の人々はわりあいに簡単にそうなりきったと信じているように見える。そして実際なりきっている人もあるのかもしれない。しかし私は決してそれができないのを私自身がよく知っている。これは理窟の問題ではなく実際そうであるのだからしかたない。
 しからば第三階級に踏みとどまっていることに疚《やま》しさを感じないか。感ずるにしても感じないにしてもそうであるのだから、私には疚しさとすらいうことはできない。ある時まではそれに疚しさを感ずるように思って多少苦しんだことはある。しかしそれは一個の
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