り廻して、お前はお前の寄木細工《よせぎざいく》を造り始めるのだ。そしてお前は一面に、悪魔でさえが眼を塞《ふさ》ぐような醜い賤《いや》しい思いをいだきながら、人の眼につく所では、しらじらしくも自分でさえ恥かしい程立派なことをいったり、立派なことを行《おこな》ったりするのだ。しかもお前はそんな蔑《さげす》むべきことをするのに、尤《もっと》もらしい理由をこしらえ上げている。聖人や英雄の真似《まね》をするのは――も少し聞こえのいい言葉|遣《づか》いをすれば――聖人や英雄の言行を学ぶのは、やがて聖人でもあり英雄でもある素地を造る第一歩をなすものだ。我れ、舜《しゅん》の言を言い、舜の行を行わば、即《すなわ》ち舜のみというそれである。かくして、お前は心の隅《すみ》に容易ならぬ矛盾と、不安と、情なさとを感じながら、益※[#二の字点、1−2−22]《ますます》高く虚妄《きょもう》なバベルの塔を登りつめて行こうとするのだ。
 悪いことには、お前のそうした態度は、社会の習俗には都合よくあてはまって行く態度なのだ。人間の生活はその欲求の奥底には必ず生長という大事な因子を持っているのだけれども、社会の習俗は平和
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